食料品消費税1%方針 ”前途多難な高市政権”

長丁場の特別国会を終えた高市首相は30日、自民党の臨時役員会に出席し、食料品の消費税率を来年4月から2年間、1%に引き下げる方針を正式に表明した。そのうえで、この方針で党内の意見を集約するよう指示した。

これを受けて自民党執行部は31日、党の税制調査会や全ての議員が参加できる会議を開いて意見集約を始めたが、異論が噴出したため、引き続き意見を聞くなどの調整を進めることになった。

自民党執行部は首相の方針通り党内の意見を取りまとめ、これを受けて政府は8月上旬に消費税率引き下げ方針を閣議決定する公算が大きい。

ただ、今回の消費減税をめぐっては、政策面で数多くの問題点を抱えているほか、高市首相の政権運営面でもさまざまな影響が出てくることが予想される。

端的に言えば、高市政権は政策と政権運営の両面で、前途多難な情勢にある。なぜ、こうした見方をしているのか以下、具体的に説明したい。

食品消費税1%、財源確保など説明できず

食料品の消費税減税をめぐって、高市首相は30日記者団に対し、来年4月から2年間、税率を1%に引き下げ、合わせて中低所得の人への給付を行い、実質ゼロとする方針について説明するとともに「衆院選挙で掲げた公約の実現を重視し、最善の方法を選択した」として、国民の理解を得ていく考えを強調した。

この方針については、既に超党派の「国民会議」で野党や有識者から、さまざまな疑問や懸念が示されたほか、自民党内の意見集約でも多くの慎重論や反対意見が出された。

国民にとっては物価高騰の中で、消費減税はありがたいのだが、一方で経済が混乱したり、社会保障に穴が開いたりするのではないかと懸念している人は多いのではないか。具体的な疑問点や懸念を挙げると次のような点だ。

まず、食料品の消費税率を8%から1%へ引き下げた場合、本当に食料品の価格が期待したほど下がるのかは疑問だ。イラン情勢を経て、石油由来の包装や材料が値上げされており、業者が税率の引き下げ分をそのまま価格に反映させるかどうかわからないからだ。インフレ時に食料品に限定した減税には限界がある。

また、肝心の財源をどのように確保するのか、高市首相の説明でも具体策を示すことはできなかった。食料品の実質ゼロを実現するためには、年間5兆円の財源が必要になるが、税収の上振れや税外収入が見込めるといっても高市首相が力を入れる投資や防衛力の抜本強化の予算とも重なり、調整のめどはついていない。

さらに「2年後に消費税率を元に戻すのは無理だ」との見方が自民党内でも聞かれる。高市首相は「2年後には私が責任を持って、確実に税率を元に戻す」と力説するが、2年後には参議院選挙が予定されており、実質増税を実施できるかと言えば難しいのではないか。

振り返ると消費税は社会保障を支える主要な税として、1989年に初めて税率3%で導入され、10%に引き上げるまで30年を要し現在に至る。この間、幾つもの政権が倒れながらも社会保障と税制の安定に尽力してきた歴史を思い起こす必要がある。

消費税率の引き下げは今回初めてになるが、疑問や問題点が多すぎる。社会保障の安定という観点からも再考した方が賢明だと考える。早期に物価高対策を行うのであれば、中低所得層に絞って大胆な給付を行う方がはるかに効果があると考える。

衆院選公約との関係どう考えるか

消費減税の是非を考える際、「衆院選挙の公約」として掲げていたこととの関係をどう考えるかという問題がある。

確かに高市首相と自民党は、消費税減税を衆院選の公約として掲げ、「検討を加速する」としてきた。選挙の公約として掲げた以上、選挙後、実現をめざすのは当然で、その責任がある。有権者が、政策の実行を期待するのも当然だ。

一方、選挙後に予測していなかった事態が起きた場合、公約の内容を見直すことはありうるのではないか。現実の政治では公約の修正もありうるし、その場合、政権・政党が説明し納得してもらうことが必要不可欠だ。

先の衆院選を思い起こすと、高市首相は今年1月、突然の衆院解散を表明した記者会見で食料品の消費税ゼロは「私の悲願だ」と強調し、党の公約に盛り込んだ。だが、党内でこの問題をめぐり突っ込んだ議論を行うことはなかった。

また、選挙戦で高市首相が消費減税を取り上げ、自らの考えを訴える場面はほとんどなかったと記憶している。選挙で公約が取り上げられ、争点になったのかどうか実態も踏まえて考える必要があるのではないか。

政権の安定度や政治の展開を左右

さて、食料品の消費税減税が政権与党内でどのような形で決着がつくかは、高市政権の安定度や今後の政権運営、秋の政治動向に大きな影響を及ぼす。

自民党は3日以降も党の税制調査会と社会保障部会との合同会議で、議員の意見を聞くなどの調整が行われるが、麻生副総裁や鈴木幹事長ら党執行部は高市首相の方針を了承するものとみられる。

これを受けて政府は、8月上旬には閣議決定する公算が大きい。その場合、秋の臨時国会に食料品の消費税率を1%に引き下げる関連法案を提出することになる。

今後の政権運営を考えると高市内閣の支持率が7月半ば以降、急落していることをどのように考えるかが問題になる。この背景には、皇室典範の改正も影響しているとみられるが、高市政権の物価高対策などの経済政策が十分ではないという不満があるのではないか。

今月の飲食料品の値上げは2311品目で、去年8月と比べると8割も増えている。9月は4531品目とさらに値上げラッシュが続く(帝国データバンク調査)。イラン情勢に伴う包装・資材価格の上昇が影響している。

高市首相が消費減税の決定にこぎ着けても実施は来年4月からで、かなり先の話だ。今回の方針決定が支持率回復につながるとは限らない。高市政権は内閣支持率が高いことが政権運営の原動力になっていたが、その力が揺らぐ可能性がある。

高市政権として対応が迫られているのは、当面の物価高対策と経済運営の基本方針を明らかにすることだろう。為替水準は1ドル=164円に迫る歴史的円安で、日米通貨当局が円買いの協調介入を行った。物価高対策には、歴史的円安に歯止めをかけられるか、経済運営全体の方針を明らかにする必要がある。

次に秋の臨時国会で食料品の消費減税法案をめぐっては、日本保守党を除いて全ての野党が反対の立場だ。与党が過半数割れしている参議院では、法案審議は難航必至で、高市政権は膨大なエネルギーを費やすことになる。先の衆院選で得た膨大な政治資産を消費減税に投入するのが賢明な選択かという問題でもある。

先の特別国会で、高市政権の国会運営は、政権与党内の連携がうまく機能しなかった。その対策は手つかずのままなので、次の内閣改造・自民党の役員人事で体制が強化されない限り、不安定な国会運営が続くことになる。

さらに年末には、国家安全保障3文書の改定と、防衛力の抜本強化に向けた防衛財源確保の具体的な方策が問われる。

このように高市政権の政権運営は、最優先で取り組む必要がある経済政策をはじめ、重要政策の具体化、秋の臨時国会に向けた体制強化など課題は多いが、いずれも難題で前途多難な情勢にある。(了)

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