衆議院議員の定数削減をめぐり、自民党、日本維新の会、国民民主党の3党の幹事長が29日に会談し、比例代表のみで31議席を削減することで正式に合意した。
3党は今の国会に早期に提出できるよう法案化の作業を進める方針だ。与党に加えて野党第1党の国民民主党が賛成に回ったことで法案が提出されれば、少数与党の参議院でも法案が可決・成立する公算が大きくなった。
これに対して野党の公明党や参政党、民主改革の会、チームみらい、共産党などの各党はそろって「与党に有利な案を数の力で推し進めようとしている」などと批判している。
国民は今回の定数削減をどのようにみたらいいのか。国民と政治とのつながり方や、今の臨時国会で審議が続いている食料品の消費減税関連法案などへの影響、さらに高市政権や政局との関係などを探ってみたい。
定数大幅削減、多様な民意の反映に逆行
今回の衆院の定数削減をめぐる経緯については既に詳細に報道されているので省略するが、自民党と維新は比例代表のみ「45」削減案の実現を求めたのに対し、野党各党が強く反発し、自民党は折衷案として「31」削減案を提案した。
これに対し国民民主党は「19」の削減案を提案し、自民党との協議が行われた。自民党は「31」削減は譲れないものの、国民民主党の意向を踏まえ比例代表選挙では「統一名簿方式」を容認、中国・四国両ブロックの統合、議席配分方式を中小政党に配慮した「修正サン・ラグ方式」に代えるなど案を示した。
国民民主党は「我々が歩み寄らなければ、与党は45削減で突っ込んだと思うが、それは国民も他の野党も望んでいない。政治は妥協の産物であり、いい形で妥協し3党が歩み寄ることができた」(榛葉・国民民主党幹事長)として、自民党の「31」削減案に賛成する方針を決めた。
維新は定数削減を「改革のセンターピン」と位置づけて「45」削減案を強く主張していたが、法案の成立を優先して自民党案を了承した。これによって自民・維新の与党と国民民主党は、衆議院議員定数「31」削減で合意に達した。
そこで、この3党合意をどのようにみるか。衆議院の定数削減は過去に何度も議論してきたテーマだが、1994年の細川連立政権の政治改革で、当時の定数512から500に12削減された。中選挙区から、今の小選挙区・比例代表並立制へ選挙制度が変わったのに合わせて実現した。
その後、自自公連立で発足した小渕政権当時の2000年に比例代表が20削減され、480になった。その後は「小選挙区の0増5減」、「小選挙区6減・比例4減」など小幅な削減が続き、今の定数465に至っている。
このように1994年からざっと30年かけて47議席を斬新的に削減してきた。今回31削減が実現すれば今の選挙制度が導入されて以降、最大の削減数になる。但し、削減幅が大きければよいという単純な話ではない。議員定数は、国会議員を通じて国民の声を政治に届ける民主主義の基本に関わるからだ。
今回の3党合意の内容をみると野党が選挙協力を行いやすくなる「統一名簿方式」などを追加しているが、いずれも微調整だ。大きな特徴は、議員定数の削減は比例代表だけで行い、小選挙区にはまったく手を付けていない点にある。
端的に言えば、全国の小選挙区で強い自民党と、地域地盤の大阪の小選挙区で強い維新に有利な案といえる。比例だけの削減になれば、これまでブロック比例で議席を獲得してきた少数政党は大きなダメージを受ける。
国民の側からみると、最近の国民の選挙での選択は、参議院の比例代表選挙で少数政党が幾つも議席を得ている点に表れているように、民意は多様化している。比例代表だけで定数削減を進めていけば、多様な民意を政治に反映させることはできず、逆行するといってもいいだろう。今の並立制の選挙制度では、小選挙区と比例代表のバランスをとることができるかどうかもポイントになる。
今の制度を導入した1994年当時の定数は、小選挙区300と比例代表200、60%対40%だった。現在は小選挙区289と比例176で、62%対38%。今回比例31削減が実現すると小選挙区289と比例145、67%対33%となる。比例の割合は40%から33%にまで縮小する。その結果は、野党の役割の一つである行政監視機能は後退することになりかねない。
国民民主党はどこへ向かうのか
今回の定数削減の動きの中で、衆参を合わせた勢力で野党第1党の国民民主党は何を目標に自民党との合意に踏み切ったのか、よくわからないとの感想を知り合いの何人もから聞いた。
与野党の実務者協議の中で古川代表代行は人口減の要素を考慮に入れて「19」削減案を提案したが、自民党の態度が固いとみるとこの案は断念し、「31」の折衷案を受け入れた。
古川氏は「削減数以外では、国民民主党の主張の多くが受け入れられた」とのべ、「統一名簿方式」の導入などに大きな意味があると強調した。他の野党の関係者からは「野党が結束して反対すれば、今国会では定数削減は阻止できたのに残念だ」などの批判も聞いた。
また、これまで国民民主党の玉木代表は、維新の削減案を厳しく批判するとともに「削減よりも選挙制度改革や、企業・団体献金の規制の議論を先に行うべきだ」と主張してきた。今回の対応は、方向転換したようにみえる。
国民民主党としてはこのところ支持率が低迷しており、定数削減問題で主導権を発揮し、党の存在感をアピールするねらいがあるのかもしれない。だが、他の野党だけでなく、国民からも「自民党に取り込まれてしまったのではないか」と懸念の声も聴く。
国民民主党として、野党第1党としての役割をめざすのか、連立入りも視野に対応していくのか、政権構想や路線を説明する必要がある。
そのうえで、定数是正や選挙制度改革は民主政治の土台であり、与野党の第1党同士が合意すればそれで決着とはならない。政権与党はもちろんだが、野党第1党としても幅広い政党の合意を得るための取り組みを進める責任がある。定数削減は本来、選挙制度と一体のものとして議論し、与野党で結論を出すのがあるべき姿だ。臨時国会での与野党の対応を見届けたい。
臨時国会、高市政権・政局へ影響は
今回の3党合意は、今の臨時国会や、高市政権と今後の政局にはどのような影響があるだろうか。今の時点で具体的な動きが起きているわけではないが、これまでの動向を踏まえると次のような点を注目してみていく必要がある。
臨時国会については、食料品の消費税減税法案の扱いが最大の焦点であることは変わっていない。政府・与党は、今回の問題で野党の足並みが乱れ、野党間に疑心暗鬼を引き起こさせたいとの狙いがあるのは事実だと思う。
だが、消費減税法案の主戦場は、与党が過半数割れしている参議院になる。参議院は与野党ともに衆院とは一線を画して法案審議を行う志向が強い。したがって今回の動きが、参議院の法案審議に直接的に影響を及ぼす可能性は小さいのではないかとの見方をしている。
参議院の野党第1党は立憲民主党(39議席)で、第2党が国民民主党(25議席)、公明党(21位議席)などと衆議院とは構図が異なる点もある。野党間の足並みの乱れよりも、与党と野党とのせめぎあいが大きくなるとみている。
次に高市政権や政局との関係はどうか。高市首相にとって、衆議院の野党の足並みの乱れは好都合だ。特に定数削減は消費減税法案を成立に向けて、足かせになる可能性があるので、早い段階で定数削減のメドがたった効果は大きい。
一方、自民党の麻生副総裁や鈴木幹事長は、かねてから国民民主党との連携を重視し、連立の関係まで持ち込むことをめざしている。今回、国民民主党が賛成に回ったのは、水面下の働きかけが功を奏したのではないかとの見方もあり、これまでの動きを続けるものとみられる。
政府・自民党内では、高市首相を中心に維新との連立を推進するグループと、もう一つ別の野党との連携・連立を実現したいとの動きがある。来年秋の自民党総裁選挙もにらみながら野党との連携、具体的には、国民民主党や公明党との関係構築を模索する動きが続くものとみられる。
消費減税法案をめぐる与野党の攻防と、国会外の市場の反応、それに世論の動向を見ていく必要がある。これからが臨時国会の本番だ。(了)
