高市首相は政権発足から来月で1年を迎えることから、16日に自民党役員人事を行ったのに続いて、17日に内閣改造を行い、第2次高市改造内閣が発足した。
内閣改造では、内閣の要である木原官房長官をはじめ、片山さつき財務相、茂木外相や小泉防衛相らの主要閣僚がいずれも留任した。自民党役員人事でも麻生副総裁、鈴木幹事長、小林政調会長ら党役員のほとんどが留任した。
このように今回の人事では、高市政権がめざす重要政策を推進するため、主要閣僚や党役員のほとんどを留任させたのが大きな特徴だ。一方、去年総裁選を争った林総務相の再任は見送りにした。今回の内閣改造と自民党役員人事の全体をどのようにみたらいいのか探ってみたい。
主要閣僚8人が留任、林総務相は閣外へ
最初に内閣改造の主なポイントについて、整理しておきたい。第1の特徴は、冒頭で触れたように主要ポストで留任が目立ったことだ。内閣の要である木原官房長官をはじめ、財政を担当する片山さつき財務相、外交・安全保障のかじ取りにあたる茂木外相と小泉防衛相については、早い段階で留任が固まった。
また、赤沢経産相や城内・成長戦略担当相、小野田紀美・経済安全保障相、上野厚労相も留任となった。首相を除く18閣僚のうち、留任は合わせて8人だから、ざっと半数近くにのぼる。
次に連立を組む日本維新の会は政権発足時には閣僚を出さない「閣外協力」の形を取ってきたが、今回初めて閣僚を出すことになり、規制改革担当相に中司宏・前幹事長が就任した。維新から初めての入閣になった。
さらに、去年の自民党総裁選を高市首相と争った「ポスト高市」の4人の処遇も注目された。このうち小林政調会長も留任したことから、残る林総務相の処遇が焦点になっていたが、17日午後の閣僚名簿の発表で林氏の名前が読み上げられることはなかった。
林氏は旧宏池会の出身で、政治的な立ち位置が高市首相と異なることに加えて、去年の総裁選での議員票では高市首相を上回ったことから「高市首相は今回の人事で林氏を閣内に留めて封じ込める戦略だ」との見方と、逆に「林氏を起用せず、他の3人と分断を計るのではないか」との見方に分かれていた。
高市首相と林首相との間でさまざまなやり取りがあったとみられるが、結局、首相は林氏を起用しない決断をした。これに対し、林氏を支持する関係者の間では「林氏は総裁選に向けて自由に活動できる」と閣外に転じたことを歓迎する受け止め方もあり、高市首相にとって総裁再選のリスクになる可能性もある。これが1つ目のリスクだ。
このほか、今回の閣僚人事では自民党の派閥の裏金問題で、収支報告書に不記載があった議員が初めて入閣した。文部科学相に起用された関芳弘衆院議員は不記載額が836万円で、戒告処分を受けた。農水相に起用された簗和生衆院議員は不記載額が1746万円で、6か月の役職停止処分を受けた。
高市首相は記者会見で「それぞれの議員も真摯に説明を尽くし、これまで2回の選挙で審判を受けたてきた。いずれも内閣の一員として必要な能力を持つ方だ」と釈明した。
時事通信の世論調査では、裏金事件に関与した議員を閣僚や党役員に起用することについては反対が68.6%、自民支持層でも反対は53.6%に上ったことから、世論の批判が再燃することも予想される。
党役員人事、参院幹事長交代のリスクも
次に、16日に行われた自民党役員人事は、高市政権にどのような効果や影響を及ぼすだろうか。党役員人事では麻生副総裁をはじめ、鈴木幹事長、小林政調会長を留任させたほか、総務会長には梶山国対委員長を起用した。さらに萩生田幹事長代行も留任することになった。
当初、高市首相は鈴木幹事長の交代を求めるのではないかとの見方が党内にあったが、高市首相は8月下旬から麻生氏と2人だけで昼食をともにするなどその後も会談を続けた。そして早い段階で鈴木幹事長の留任が固まるなど今回は、麻生氏に配慮した人事であることがうかがえる。
自民党関係者よると高市首相は、当面の秋の臨時国会で食料品の消費税減税の関連法案の成立を図ることが政権の最優先事項であると同時に、来年秋の自民党総裁選挙もにらんで麻生氏の協力が不可欠だと判断しているとの見方をしている。
一方、党内で波紋が広がっているのが参議院自民党の石井前幹事長を交代させ、青木議運委員長を起用した人事だ。参議院自民党の人事は、党所属の参議院議員で選挙された参議院議員会長が決める規則になっており、松山参議院議員会長が決定したものだ。
だが、自民党関係者によると「高市首相と石井氏とは新年度予算案の国会対応をめぐって溝があり、首相の強い意向を松山議員会長が配慮して交代させたのが実態だ」との見方をしている。高市首相と松山議員会長はそろって否定しているが、額面通り受け止める議員は少ない。
自民党のベテランによると「石井氏は国対委員長を務め、与野党に太いパイプを持っており、彼を上回る能力を持った幹部は見あたらない」として、参議院での法案審議が行き詰まった場合、影響が出てくるとの見方をしている。端的に言えば、参院幹事長の交代は国会運営面のリスクになる公算が大きいというわけだ。
国会運営といえば、自民党の国会対策委員長に当選6回の村井英樹氏が起用された。村井氏は筆頭国対委員長などを務めてきたが、閣僚経験のない中堅を国対委員長に抜擢するのは異例で、これも高市首相の意向が働いているとされる。
衆議院は先の選挙で自民党が圧勝し、与党で4分の3の議席を占めるので、国会対策上の問題はほとんど生じないかもしれないが、参議院は与党が過半数割れして厳しい状況だけに、首相主導の国会運営を危ぶむ声は多い。これが2つ目のリスク。
国会乗り切りと柔軟な政権運営がカギ
それでは、今回の人事全体をどのようにみたらいいのか。高市政権にとって、内閣改造は初めての人事であると同時に、衆院選で圧勝した後の政権運営をどのように行うかという問題でもある。この両方を考えるうえで参考になるのが、高市首相が「政治の師」と仰ぐ安倍元首相のケースだ。
具体的には、安倍元首相が2012年12月の衆院選で圧勝して、政権復帰を果たした後、最初の内閣改造を行ったのは2014年9月だった。つまり政権発足後、最初の内閣改造に踏み切ったのは、2年近く経ってからだった。その間、実績を積むと同時に、改造の祭には、官房長官や財務、外務など主要閣僚6人を留任させた。
同時に安倍首相は、経済政策アベノミクスの具体化を進めるとともに、新たに「地方創生」などのテーマを打ち出し、その担当相に総裁選でライバル関係にあった石破氏起用した。また、幹事長にはハト派の谷垣氏(自民党総裁経験者)を説得して就任してもらうなど懐の深い布陣を敷いた。さらに女性閣僚を過去最多の5人起用するなど具体的な取り組みを展開したのが思い出される。
今回、高市首相の人事は、閣僚の留任の多さでは、安倍元首相の改造人事を上回る8人にのぼる。また、衆議院議員全員に希望ポストのアンケートを行い、それを基にに閣僚を起用したとアピールするが、安倍政権と比べると具体的な目標設定や多様な人材を配置する戦略性などが見あたらない。
高市政権は、衆院選挙の公約として打ち出した食料品の消費税減税も、税制改正大綱が決まった段階で、法案化はこれからだ。秋の臨時国会で成立しても実際に税率引き下げが実現するのは来年の4月になる。
秋の臨時国会で法案審議が順調に進むのかどうか、特に参議院の審議は難航が予想される。先の特別国会では新年度予算案の審議を圧縮したり、改正皇室典範の審議は衆参両院でわずか1日で、世論の批判を浴びた。首相主導の強引な国会運営は生産的でなく、改めた方がいい。
外交・安全保障分野でも安倍政権の発足当初は、中国との関係が悪化していたが、APECが中国で開催されるタイミングをとらえて自ら訪中し習近平国家主席と日中首脳会談を行った。そして、戦略的互恵関係を確認するなどして事態の打開を図った。
高市首相も、安倍元首相が行ったように内外情勢を冷静に分析しながら、柔軟で安定した政権運営を実現できるかどうか、今回の人事の結果がさっそく試されることになる。(了)
